外へ出ろ。今すぐ、外へ出るんだ。
そうだ、表へ出ろと言っている。
さあ、僕と一緒に山へ行こう。
あのさびしい裏山に、二人で一緒に行くんだ。
ああ、すばらしいミジンコを見つけたよ。
かわいいな。
ほら君、ミジンコをいたわっておあげなさいな。
かわいそうじゃないか。
生きているんだよ、ミジンコだって。
君と僕と同じさ。
みんな友達じゃないか。
やめろ。僕をおとしいれるな。
そうやって、いらぬことばかり言うね、君は。
さっさと、埋めろと言っているじゃないか。死体を。埋めろよ。
僕は、掘り返すからさあ。
君が埋めた死体を、埋めたとたんに掘り返すよ。
肢体じゃないよ、死体だよ。さあ埋めろ。さっさと埋めろ。
埋めろと言っている。埋めろと言っているんだ。はやくしないか。
そうだ。上々だ。それでいいのだ。
僕は、掘り返すから。
掘り返したよ。ガボッガボッて、掘り返したよ。
それから、僕はその死体を愛した。誰の死体なの、これ?
わからないけど、僕はその死体を愛して、汚しました。
よし、わかった。それからだ。問題は、それからなんだ。
僕に酒を飲ませろ。今すぐ飲ませてくれ。
だから、言っているだろう?
僕は酒がないと、だめなんだから。
わかっているくせに。ひどいね、君は。いやらしいね。
性根がくさっているんだよ、君は。
さっさとしてください。僕に薬品を与えてください。
酒がないというのか? 馬鹿にしくさる。ほどほどにしてくれ。
じゃあなんでもいいよ。なんでもいいやさ。
薬品じみたものなら、なんでもいいよ。
はやく、はやく、はやく、はやく、はやく!
とんでもないな、君は。ひどい奴だ。
僕よりトロンボーンがうまく吹けるわけでもないくせに。
僕はね、トロンボーンにかけては、誰にも引けをとらないんだよ。
こんど君に、吹き方を教えてあげようか?
君は、蝶々だね。
僕は、鷲だよ。あの大きく強い鳥だよ。
どうだい? 僕のがずいぶん立派な生き物のようだね。
参りましたか? いい気味だ。
だからと言ってね、誤解しないでもらいたいんだよ。
僕は君を愛しているよ。
こんなことを言っているけど、君のことが好きなんだ。
好きで、好きで、しかたがないんだ。
だから君も、僕のことを愛してください。愛せよ。
いやなの? ばか。やめてよ。
そういう、ロマンチックなことはお嫌いでいらっしゃる?
上等上等、それでなくっちゃあいかんよ。
さすが僕のフィアンセだね。
そろそろ刺身を食べませんか。
食べたくないですか。
じゃあ、一緒になわとびをいたしませんか。
優雅な遊びを、いたしませんか。
夜です。満月がお綺麗でございます。
私たちは満月を眺めましょう。
素敵に優雅なお夜を、お過ごしいたしましょう。
さみしいときはいつでも、君といっしょにいますよ。
さみしくなんか、ないですよ。
とんでもない。あなたを殺すなんて、とんでもない。
むしろ君が、僕を殺すべきなんです。
だから、僕を僕に、僕の、僕を僕してください。
君は、君にとって、君の君に君であってください。
トンネルの中で、君を好きだと、
君を愛していると、僕は、そう言うつもりではある。
でも君は、僕を憎んでいるのだね。
それでも、僕はね、君をね、悲しませたくはないよ。
君は、幸せであるべきなんだよ。
君は、泣いちゃあいけない。
君を、泣かせてなるもんか。
君が涙をながしたら、僕は、君の涙をなめるから。
なめつくすから。
僕は涙をながします。
君の涙はなめつくすけれども、
僕は涙をながします。
僕は、君と僕の涙を飲んで、生きる。
悲しいお酒は、もういやなんです。
涙だけを飲んで、生きていきたい。
僕は君の涙を飲みたい。
君の涙は、僕のすべてだ。
僕は、君の涙と、等価なのです。
一体になって、溶けてゆきます。
少女の歌声が聞こえてきます。
透き通るような、とてもきれいな歌声です。
それがぐるぐる、ぐるぐる、うずまいて、
君と僕を、まきこんで、
ずっと君を、僕は欲していたの?
いっしょになったのかな。
きたないことも、きれいなものも、
すべてが一緒くたになっちゃうみたいだね。
僕は、君のなみだを、なめる。
君は僕を、にくみますか。
僕は君を、好きです。
君は僕を、好きではないですか。
僕は君が、好きです。
明日は、よい天気ですか。
明日は、暑いでしょうか。
明日は、薄着でいきますか。
僕は、とろとろ、とろけていきます。
君は、僕といっしょに、とろけてくれますか。
僕と、君は、別々ですか。
僕は、根性無しみたいだ。
君は、「どうでもいいわ。あなたも、何もかも。
月が欠けたって、潮が満ちたって、どうでもいいの」
と言うけれど、僕は、どうでもよくないんだよ。
君のことが、気がかりだよ。
明日は、暑いんだから。
厚着をしたら、いけないんだよ。
汗がいっぱい、たくさん、出ちゃうんだよ。
僕は、嘘をついて生きていくだろう。
でも君は、正直に生きてください。
僕には嘘しか、つけないのです。
君だけは、正直に生きてください。
君がトロンボーンを、うまく吹けるようになったら、
僕といっしょに、富士山に登りましょう。
富士山のてっぺんで、
いっしょにトロンボーンを音高く吹いて、
火口から、いっしょに飛び降りましょう。
きっと、素敵なところに辿りつけますよ。
僕は、あなたが、君が、好きなんです。
君は、僕が、好きではありませんか。
僕は君が、好きなんです。
僕は君が、好きなんです。*1
*1:2025年10月14日、読みやすく整えました。