今日は、梨華ちゃんが僕の家に遊びにくる日だ。わくわく。楽しみだな。梨華ちゃんと、いろんな話をしよう。ピンポーン。あ、梨華ちゃんが来たみたい。
「梨華ちゃん、いらっしゃい。せまい家だけど、ゆっくりしていってね」
「今日の、梨華のファッションチェック、いえーい! パチパチパチ。じゃーん。今日は、あのねえ、ジャージ。ジャージが大好きで、家でもよくジャージ着るんですよ」
「おや、梨華ちゃん、元気いいね。そうなんだ。僕もね、家ではジャージを着ているんだ。ねえ梨華ちゃん、そのジャージ、似合っているね。良いピンク色だね。どこで買ったの?」
「そして、あたしいつも家の中で靴下はいてるの。だから、ピンクの、靴下を、はいてます」
「へえ……靴下を履くんだ、家の中で。はだしのほうが楽じゃないかなあ。あ、靴下もピンクなんだね。で、さっきの話だけどさ、そのジャージ、どこで買ったのか教えてくれないかな?」
「まあちょっと、何も無いのも、さみしいので、ちょっとあの、飲み物を、持ってきます」
「え? 飲み物? ああ、僕が入れるべきだったね。ゲストを働かせちゃって、ごめんね」
「ね、お湯と、コップでしょ、そしてそして、こちらはね、よいしょ、こちらは、紅茶セットです。ね。あれ、ひっかかっちゃった。あたし紅茶がすごい好きで、家でもよく飲むんですけど、これを飲むとね、落ち着くんですよ」
「ああ、僕も紅茶はね、けっこう好きだよ。どちらかと言えば、コーヒーのが好きだけどね。梨華ちゃんは、どう? コーヒーと紅茶では、どちらが好きかい?」
「ちょっと待って、こぼれちゃった」
「あ、大丈夫? いいよ、僕が拭くから。いいって、いいってば」
梨華ちゃんはどたどた走り、台所から布巾を持ってくる。
「よくね、家でもね、走り回ってあたしこけるの。靴下はいてるから。馬鹿でしょ? うふふ」
「それは、馬鹿だね、ひどい馬鹿だ。あはは。家で靴下を履くのは、やめたほうがいいよ。あぶないよ。頭でも打ったら、死んでしまうかもしれないよ。危険だよ」
「ここにあるのが、“レモンシュガー”って言って、レモンってほら、家に、毎日あるものじゃなくて、ねえ、全部使い切らないから、あたし紅茶飲むときしかレモン使わないから」
「レモンシュガーなんて初めて聞いたなあ。それって、レモンの粉? すりつぶしたやつ? 甘いの? それってむしろ、すっぱくなるんじゃないの?」
「そのときはね、あのね、レモンシュガーっていうの入れるんですよ。そうすると、これは、全部入れちゃった。甘いから、これだけでお砂糖いらないの」
「へえ。甘いんだ。レモンシュガーって甘いものなの? 知らなかった。ねえ梨華ちゃん、レモンシュガーってどこで売っているの? それはどこで買ったの? いくらくらいするの?」
「これ、なにかわかりゅ? わかりゅだって。うふふ」
「へ? ねえ、レモンシュガーの話はどうなったの? 僕の話、聞いてる? ……まあいいや。えーと、それは何だろう。はちみつかなあ」
「はちみつ。これは、あたし喉がそんなに強くなくて、よくいっつも喉痛めたりする、のね」
「ああ、それは大変だね……。歌が、唄えなくなっちゃうからね。はちみつって、喉にいいんだね。梨華ちゃんの歌があまり上手くないのは、喉を痛めているからなの?」
「だからこのはちみつを、これね、もう充分、甘いです。これとっても甘いです。しかしこの中に、このはちみつを、たっぷり入れます。うぅー。まだ入れる。よし。じゃあ、いただきます」
「あ、どうぞどうぞ。頂いてください。あれ? 作ったのは一人ぶんなの? 僕のぶんは無いの? まあ、いいんだけど……。いいんだ、いいよ。自分で入れるからさ……」
「おおー、いい甘さ。まあでも、紅茶飲んでる、と、甘いものが欲しく……なるよね! ちょっと待ってて!」
「たしかに、何か食べたいよね。あ、また梨華ちゃんが動くの? 僕が持ってくるのに。悪いね、なんか」
「ただいま。じゃーん! こちらは、甘いもの大好きな石川にとっては、もう、大喜びの、マンゴープリンでございます。これですね、で、こっちが、マンゴームース!」
「梨華ちゃん、おかえり。好きなんだね、甘いもの。僕は、好きでも嫌いでもないよ。しいて言えば、まあ、好きかなあ。マンゴープリンにマンゴームース、美味しそうだね。ねえ、それはどこで買ってきたの?」
「これね、ほんとに美味しくて、あの、差し入れでいただいて、もう超美味しくて、よく食べてるんですけど、まあこのね、紅茶にぴったりの、まあ、3時のおやつ的な、感じですが」
「紅茶には合いそうだよね、たしかに。3時のおやつ的な感じっていうか、そのまま3時のおやつだと、僕は思うよ。ところでさ、それはどこで買ってきたの?」
「じゃあ食べたいと思います。すごい、もう、プルンプルンなの。ほら、いただきまあす」
「プルンプルンなのはいいけどさ、あれ? 僕の分は無いのかなあ、やっぱり。あれれ。まあ、いいんだけどね。いや、いいんだ。そんなに好きじゃないんだ。僕は甘いものが。どうぞ、召し上がれ」
「うーーーん。あのねえ、うん! うん、もう、舌ざわりがね、とってもね、クリーミーで滑らかで、美味しいです」
「なるほど、じつに美味しそうだね。僕のぶんは、やはり無いんだね。梨華ちゃんだけが、食べるんだね。いや、いいんだ、僕は。梨華ちゃん、どんどん食べて」
「これね、教えてもらったの。こうやって、回るやつ。うふふ」
そう言って、梨華ちゃんは上半身をゆらゆらさせ、にこにこ笑う。
「ねえ梨華ちゃん、とても美味しそうだね。ねえ梨華ちゃん、僕の話、聞いてる?」*1
*1:2025年10月14日、読みやすく整えました。
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