結局、ぜんぜん眠れないまま、無意味なめざましが鳴った。午前11時から、梨華ちゃんの出る『モー10トークショー』がある。急いで準備をして出かけたが、途中でうっかりしたことに気付く。「チケットを持ってくるの忘れた。なんていうことか。まいったなあ。おっちょこちょいだな僕は」と自分に呆れ、チケットを取りに自宅に帰ってきたら、もう11時には間に合わなくなっていた。
まあいいや、トークショーはあと3回ある。1回くらい見なくても別にいいや。12時半の回に間に合うように家を出よう。でもなんだか行きたくないな。梨華ちゃんに会いたいけど、会いたくない。きっと綺麗なんだろうけど、見たくない。かわいい声も聞きたくない。会いたいはずなのに、ぜんぜん会いたくない。池袋なんて行きたくない。人が怖い。ヲタが怖い。警備員が怖い。保田さんが怖い。中澤さんが怖い。梨華ちゃんが怖い。薬を飲んでも、ぜんぜん明るくなれない。お腹の中に鉛が詰まっているみたいだ。どこにも移動したくない。眠りたい。けれどなぜだか眠れない。なんだこの恐怖感と絶望感は。おかしいだろう、こんなの。納得いかないよ。『今日は梨華ちゃんに会える』って、『4回も会えるんだ』って思って、楽しみにしていたのに。どうしてこんなに死にたくなるんだよ。
同日夜、追記
上の文章を自室のパソコンで書いて投稿し、ふと時計を見たら12時半の回にも間に合わなくなっていた。「うう、梨華ちゃん…。でも別にいいや。トークショーはあと2回もある。15時半の回を見られるように出発すればいい」と思ったが、ふと気付いたら15時半を過ぎていた。そして日が落ち、時計の針が19時をさしているのを見て、「すべての回が終わった。ああ、僕は結局、梨華ちゃんに会いに行かなかった。トークショー4回分のチケットと、記念展の入場券がぜんぶ無駄になっちゃった。1万円もしたのに。もったいないお化けが出るぞ。ヒュードロドロ。うらめしや〜。ごめんなさいお化けさん。そして梨華ちゃんごめんね。僕のせいで、空席が増えちゃったね。梨華ちゃんに会いたかったな。次は文化祭か、娘コンかな、次はちゃんと行くからね。ごめんね。楽しみだなあ。土日月って、お仕事たいへんだったよね。おつかれさま。明日はきっと休みだよね。ゆっくり休んでね。梨華ちゃん、大好きだよ!」と、僕はベッドの上でつぶやき、目を閉じた。